公開日:2025.8.14 更新日:2025.8.14

欧州サイバーレジリエンス法(CRA)とは?

その概要と重要性を解説

欧州サイバーレジリエンス法(Cyber Resilience Act、以下CRA)は、EU域内で流通・提供されるあらゆるデジタル製品やサービスに対し、セキュリティ面での強固な要件を求める新たな法規制です。2026年9月より脆弱性報告義務、2027年12月に全面適用されます。
CRAが施行されることにより、製造元やサービス提供者は出荷前や運用中におけるセキュリティ対策を定期的に行い、アップデートやリスク管理体制の維持が義務づけられます。従来の法律や基準ではフォローしきれなかったソフトウェア面の継続的保守やアップデート義務も含まれており、サイバーセキュリティの基準が格段に引き上げられます。
本記事では、CRA従来の規制との違いから企業にもたらす影響や、実際の対応方法、関連用語も含めて解説します。

CRAの背景:急速に変化するサイバーセキュリティ環境

サイバー攻撃の巧妙化やデバイスの多様化を背景に、従来の枠組みでは対応しきれない現状があります。従来のセキュリティ規制や標準では、脆弱性を一度発見して修正すれば万全と考えられていました。しかし実際には、ソフトウェアやファームウェアの更新が追いついていないデバイスを標的に、深刻なインシデントにつながるケースが増えています。
CRAが対象とする分野は、IoTデバイスからクラウドサービスに至るまで幅広く、安全確保のハードルもこれまでになく高く設定される見込みです。サプライチェーンの複雑化や国際的な取引が増える中、それぞれの製品やサービスで同等のセキュリティレベルを担保することが求められるようになっています。企業規模や業種を問わずねらい撃ちされるリスクがあるため、あらゆる領域で包括的な備えが必須といえます。
さらに、サイバー攻撃の影響範囲が拡大しており、企業や組織だけでなく社会インフラにも被害が及ぶ事態が起きています。こうした大規模被害への懸念が国際的に高まった結果、クラウドや通信事業者、ハードウェアメーカーなど多様な業種が横断的に規制されるようになったのです。

IoTデバイス増加によるリスク

IoTデバイスが急増し、家庭やオフィス内だけでなく交通、医療、工場など多様な現場で常時接続が行われるようになりました。これらのデバイスはしばしば更新やメンテナンスが十分になされず、脆弱性を通じてネットワーク全体への攻撃経路となるリスクを抱えています。特に個人情報や機密データを扱う機器に対する攻撃が増えれば、利用者だけでなく社会全体の安全保障にも大きな影響を与える可能性があります。さらに、各国の法規制の違いが原因で国際的な混乱を招くケースもあり、グローバル標準となる規制の重要性が増しているのです。

従来の規制との違い

従来の製品安全指令では、物理的な安全面にフォーカスが置かれていましたが、CRAはソフトウェアやライフサイクル全体を対象に含む点が特徴的です。たとえば、製品出荷後のセキュリティアップデートの義務や、利用者が安心して使い続けられる保証も求められます。エンド・オブ・ライフ時期における長期サポートの必要性、さらには開発段階からのセキュリティリスク評価など、より総合的な対策が義務化されつつあるのが大きな違いといえます。

CRAが企業にもたらす影響と義務

CRAの導入により、EU市場での製品販売やサービス提供にあたり、企業は新たな対策を求められます。
CRAが施行されると、EU市場へ製品を投入する企業は上市前により厳密なセキュリティテストやリスク評価を行わなければなりません。特にIoT製品を扱う企業やクラウドソリューション企業にとっては、ハードウェアとソフトウェアの両面で基準を満たす必要があります。そのため、製品開発プロセスの早い段階からセキュリティ対策を組み込んでおくことが不可欠となるでしょう。
また、CRAでは安全性やセキュリティ検証が一回限りではなく、ライフサイクル全体でアップデートを実施することが求められます。ユーザーに対して迅速にセキュリティパッチを提供しなかった場合、想定外の攻撃を許すリスクが高まるだけでなく、未遵守として制裁金の対象になる可能性もあります。こうした継続的な責任が企業に課せられる点で、従来の規制とは大きく異なる影響をもたらします。
さらに、企業のブランドイメージや信頼性にも関わるため、CRAを順守できない企業は長期的に市場競争力を失いかねません。CRA対応が十分でない製品はEU圏内での流通が制限されるリスクがあるため、企業戦略や事業計画にも大きな影響を及ぼすと考えられます。

EU市場参入における要件

EU市場へ参入する企業は、自社製品が環境規制や安全規制を満たすだけでなく、CRAで求められるセキュリティ要件をクリアする必要があります。製品設計時の暗号化処理、耐障害性テストや脆弱性スキャンといった具体的な技術対策が求められるため、開発コストが増えることも想定内です。さらに、現地の認証機関や検査プロセスを迅速に通過できるよう、製品仕様書やリスク評価報告を整備しておくことが重要です。

違反リスクと罰則

違反が発覚した場合、制裁金は企業の年間売上高に対して一定割合が課される可能性があり、金融リスクも非常に大きいといえます。罰則だけでなく、欧州での販売停止命令や製品リコールなどの措置が下される場合もあり、企業ブランドに深刻なダメージをもたらします。CRAは欧州委員会や各国の監督当局による監視を伴うため、形式的な対応ではなく本質的なセキュリティ施策の導入が必要です。

参考:CRAタイムライン

※CRA情報をもとに加賀FEIで作成

CRAに対応するための手順と課題

CRAへの対応するための最初のステップとしては、CRA条項の理解が不可欠です。その後、自社の開発製品の特定・分類、CRA条項と現状のギャップ分析を行い、対応策の策定と進めるとよいでしょう。

CRA対応の課題

CRA対応のよくある課題を挙げてみましょう。
・CRA要件と現状のギャップ分析が出来ない、または時間がかかりそう
・CRAの適用開始時期までの段取りを立てたいけれど、対策漏れが心配、対応にかかる時間がわからない
・適合性評価を依頼したい
・各種文書のレビューや作成を手伝ってほしい
こういった課題解決のためには、専門家によるコンサルティングサービスを利用するのも有効な手段です。Capgeminiでは、経験豊富なコンサルタントがお客様の疑問や課題の解決をお手伝いします。製品の適合性評価もセキュリティ診断の専門家が実施し、脆弱性が発見された場合には推奨対策案をご提示。お客様の状況や予算などのご要望に沿ったご提案をいたします。

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まとめ・総括

CRAはEU市場を中心としたデジタル製品開発・提供に大きな影響を与える規制であり、ライフサイクル全体でのセキュリティ強化を求める点に特徴があります。各企業は開発段階からのリスク評価やアップデート体制の構築など、包括的な対応が必要となります。
CRAへの対応はリスク低減だけでなく、EU市場への信頼性向上やブランドイメージの向上にもつながります。規制を順守した製品・サービスは顧客からの選択肢として優先度が高まり、国際競争力の強化にも貢献します。
最終的に、CRAはEU域内のみならず世界全体のサイバーセキュリティ基準に影響を及ぼす可能性が高いと考えられています。早期に動向を把握し、適切な対策を講じることで、新たな課題が提起される中でも柔軟にビジネスを拡大し続ける基盤を作ることができるでしょう。

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